鷹の俳人
兼城雄(かねしろたける)
1986年生まれ 沖縄県出身 東京都在住
2010年 鷹入会
2012年 鷹新人賞受賞
分担執筆『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(平畑静塔担当)
ミニ・アンケート
◆好きな食べ物:トースト
◆自分を動物に喩えると:シャコガイ
◆好きな映画:東京物語
◆苦手なもの:会議
人物評 藤山直樹
雄さんが俳句を始める前から私は彼を知っていた。30以上年下の知的で無口な青年。その彼が俳句を始めて数か月で、私は驚きの声を上げることになった。なんとも言えない暗く深い、しかし豊かな声を持つ俳人が確実に立ち上がっていた。
彼は奇をてらわない。俳句のもつ本質的な力を信頼しているようだ。沖縄出身なのに陽光溢れる海というより鬱蒼とした森林を思わせる佇まいで、彼は静かにそこにいる。
彼の出身校が甲子園で決勝を戦ったことがあった。私が、ねえ、観なくてもいいの、とテレビの前から呼ぶと、野球は興味ないです、と彼は目の前をゆっくり通り過ぎて行った。彼はひとりでいることを恐れることなく、これからも俳句を通して自分の深々とした底の部分と語り合っていくのだろう。
自選十五句
人は灰に人魚は泡に夏の月
木犀や屍のかほの皺うすし
大蛸の腕めらめらとあふれけり
白鳥のこゑ雨雲を明るくす
母はみづ父は光やめだかの子
病臥の父鰐の眼をもつ夏の暮
こども減る国の赤子や秋ともし
月光の押し通りけり梅の村
水鳥の嘴に小魚はふるへる光
寒鯉のとどまれば水のしかかる
ちひさきはすばしつこしよシャボン玉
剥製の鹿の眼は秋とこしへに
カルテ庫に眠る名前や冬隣
凍蝶の翅の鋭く欠けてをり
逝く秋やここここここと鶏の声