星辰賞受賞作品

第14回星辰賞受賞作品

万象 桐山太志

青暗き杉の霊峰喜雨の中

懸崖を削りし車道滴れり

吊橋を踏めば啼く綱青嵐

濛々と瀞の濁れり栗の花

老楠の雲生む洞や時鳥

この先は有為の奥山蛭の雨

胸突の梛の幼樹や河鹿笛

粗樫の苔太りせる滝の道

前髪は滝を見てきし女人かな

杉の香のいよよ濃くなり滝谺

滝の上水勢はたき落としけり

滝と落ち水は光に砕けをり

かんばせにびしりびしりと滝つぶて

滝の中滝加速して落ちにけり

滝落つる半ば生まるる浮力あり

大滝の翅を散らして落ちにけり

万象の腑に落ちにける滝見かな

神体の滝をめつけ涼みけり

いつの間にか滝となりたる体かな

行き戻る昨日のやうな滝の道