星辰賞受賞作品

第13回星辰賞受賞作品

伊豆急 畠 梅乃

灯台の扉ちひさし蜥蜴の子

花海芋カヤック音もなく発てり

裏口は海玄関は夏落葉

梅雨の月小蟹が庭を歩く音

波の間に何見てきたる小蟹の眼

蟹走る速度父老ゆる加速度

白南風や蜑戸の軒の洗濯機

「大漁」の文字消えかかり箱眼鏡

赤松に雨待つこころ貝風鈴

波ぎはに潮吸ふ蝶や夏ふかし

盆道やまだやはらかき栗の毬

踊唄抜けくる津波避難タワー

海鳴の三日たうがらしがまつ赤

木の実打つ非常階段より森へ

六十路われ一茎絮とならぬ蒲

ひたきどり隧道の灯の夕焼色

隧道に跫盗らる暮の秋

笹をゆく風の尾白き師走かな

伊豆急は明るき電車ふゆかもめ

行く年の湾に傾るる宿屋の灯

第13回星辰賞受賞作品

夜業の灯 斉田 多恵

秋雨や朱肉の匂ふ出勤簿

稟議書に纏め押す印休暇明

野良猫の背中の湿り秋の朝

さやけしや虹色匂ふ貝釦

コステロに眼鏡を真似て秋に入る

キッチンカーぱたぱた展く秋日かな

カレー食ふ二百十日の錦糸町

秋冷や陶の小鳥の仰ぐ空

新宿に人の来ぬ場所曼珠沙華

軽トラに積まるる重機花カンナ

秋風やポストの口の右左

ヴェルレーヌ臥せ置く卓に黄落す

プレゼンのグラフ差し替ふ小望月

更待やコンビニに買ふ化粧水

賢治忌の光を運ぶ終電車

月島や河面に揺るる夜業の灯

天球を廻る鳥獣秋の声

男装のサラ・ベルナール黒葡萄

ドーナツに指甘くしてよなべかな

茨の実沖より雨の近づきぬ