新人賞受賞作品
第53回 鷹新人賞作品
此雁窓
鰰や一族同じ鼻の
ざわざわと世界をよぎる雪の影
真つ当に生きてきたはず鯨嚙む
新刊のスピンの浅葱冴返る
雲梯に乳房重たし春夕焼
作業着のポケットに杜甫昼蛙
梅雨冷やピアスの尖りすうと入る
星涼し窓いつぱいに葉のさやぐ
夕凪やサーカス小屋の裡赤き
アルミパンにオイルの緑秋はじめ
秋澄むや天地揃へる校了紙
犬を見にいつも来る子や昼焚火
缶詰の中の沈黙枯木星
白味噌に沈める餅や先斗町
知らぬ子に貰ふつららや手に潤む
鷹新人賞準賞作品
加藤ゆめこ
一卓に一灯垂れて蔦青葉
割り込みぬ泡の消えたるビール手に
星涼し復職の日の夜の素麺
びたびたと走る二歳の跣足なり
Tシャツで鼻の汗拭く休暇かな
遠目にも暑し暑しと君の口
手を挙げてマイク貰ひぬ雲の峰
エンジンを切つて子を待つちちろかな
エレベーターに落葉が少し本社ビル
工場の保育所燦とクリスマス
聖夜なり仕事机に子の写真
会議まづ安全唱和初暦
くたくたの作業着柔し苜蓿
蟻は浮きミニカー沈むバケツなり
母の日の母のひとりの時間かな