鷹俳句賞受賞作品

第60回 鷹俳句賞

喜納とし子

初鏡帯の高さのこれでよし

女正月日のある内に帰りけり

布団干す釣船動かざる入江

書くことは生きてゐること青木の実

寒卵ひとりに一つひとりなり

湯豆腐やわれの老ざま夫は知らず

生きたいやうに生きて寄居虫しんどさう

彼岸会や雀ひらひら低くとぶ

乾杯は明るき言葉アマリリス

雲流れ風ながれ蓮浮葉かな

水平線見ゆる岩風呂棕櫚の花

もう八十まだ八十と泳ぐなり

氷水昭和ゆつくり遠くなる

海鞘食へりもう来ることのなき町に

みんな居て手酌またよし月の宴

さみしさで死ぬ事はなし牧水忌

どう見ても菊人形の足短か

綿虫に日射し異国に戦あり

草紅葉用なき橋を渡りけり

たいくつな秋の金魚に朝がくる